2023年08月18日

22023年 第32週
(令和5年8月7日~令和5年8月13日)

【今週の注目疾患】
■侵襲性インフルエンザ菌感染症
 2023 年第 31 週に 2 例、第 32 週に 1 例、県内医療機関から侵襲性インフルエンザ菌感染症の届出があり、2023 年の累計は 17 例となった。
 2014 年から 2023 年第 32 週までに、県内では 132 例の侵襲性インフルエンザ菌感染症の届出があった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まった 2020 年以降、届出数は減少したが、2023 年は第 32 週時点で 2020 年~2022 年の各年の年間届出数を上回っている。
第 32 週時点では、2023 年は過去 10 年間で 2019 年に次ぐ届出数である。
性別では、男性 79例(60%)、女性 53 例(40%)で男性が多い。
年齢群別では、5 歳未満が 18 例(14%)、5 歳以上15 歳未満が 8 例(6%)、15 歳以上 65 歳未満が 29 例(22%)、65 歳以上が 77 例(58%)であり、2023 年は 5 歳未満の占める割合が大きい。
Hib ワクチンの接種歴は、不明もしくは記載なしの者が 88 例(67%)で最も多く、次いで接種歴ありの者が 24 例(18%)、接種歴なしの者が20 例(15%)であった。

 インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)はグラム陰性短桿菌で、乳幼児の多くは本菌を鼻咽頭に保菌する。
本菌感染症は、菌血症から全身に播種される侵襲性感染症と非侵襲性感染症がある。
侵襲性感染症は、血液や髄液等、本来無菌的な部位から細菌が分離された場合を指し、一般的に重症例が多い。
本菌は、莢膜株と型別不能株(non-typable H. influenzae:NTHi)に大別され、小児の侵襲性感染症の原因の主体は b 型の莢膜を有する H. influenzae type b(Hib)である 1)。
Hib が起こす侵襲性疾患は多くの器官に及び、菌血症、髄膜炎、急性喉頭蓋炎などがある。
Hib 菌血症は肺炎球菌による菌血症に比較して高率に髄膜炎などの合併や続発がみられる。
髄膜炎の多くは発熱で始まり、けいれん、意識障害へと進行し、短期間で死亡に至ることもある。
急性喉頭蓋炎は高熱、咽頭痛で発症し、急激に進行する気道閉塞により死亡することもある 2)。
一方、NTHi は小児および成人の非侵襲性感染症(中耳炎、慢性閉塞性肺疾患の憎悪など)の主要な原因菌である 1)。

 国内では 2008 年 12 月に任意接種として Hib ワクチンの接種が可能となり、2013 年 4 月に定期の予防接種に導入された。
Hib ワクチン導入により Hib による侵襲性インフルエンザ菌感染症の発生が大幅に減少した 3)。
本疾患について、届出時点で血清型(莢膜型)別は多くが未実施のため、正確な血清型分布は不明であるが、国の感染症流行予測調査事業の報告において侵襲性インフルエンザ菌感染症患者から分離された菌の大半が NTHi であったことから 4)、現在の届出の多くは NTHi によるものと推察される。

 国立感染症研究所の報告によると、COVID-19 封じ込め対策導入後に侵襲性インフルエンザ菌感染症の届出数は国内外で減少しており、COVID-19 の感染対策としてマスクの着用等の感染対策が広く行われるようになったことが届出数の減少につながった可能性が示唆されるとしている3)。
一方、COVID-19 の感染症法上の位置付けが 5 類感染症に変更され、基本的な感染対策の実施は個人・事業者の判断によることが基本とされたことから 5)、今後の発生動向に注意が必要である。


■参考・引用
1)国立感染症研究所:侵襲性インフルエンザ菌感染症
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2)厚生労働省:ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型(Hib)ワクチン Q&A
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3)国立感染症研究所:侵襲性インフルエンザ菌感染症発生動向: 2018 年 1 月~2021 年 12 月
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4)厚生労働省:令和 3 年度(2021 年度)感染症流行予測調査報告書
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5)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の 5 類感染症移行後の対応について
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【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況】
 2023年第32週の県全体の定点当たり報告数は、前週の17.91人*からやや減少し、17.63人であった。
地域別では松戸(24.3)、長生(23.7)、印旛(23.1)保健所管内で患者報告数が多かった。
*前週報告時点では17.92人

【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和5(2023)年8月16日更新)